私は、今まで数学の学び方について発言してきた。「数学おちこぼれ通信」(1986年刊行)から「季刊数学工房」(1995年~2001年休刊)誌を通して、疑問をオープンにすることの重要さや、数学の理解は100%でなければならず、例えば80%の理解でよしとすると、何回か積み重ねると、(0.8)nのように理解度が積で効いてきて、しばらく(例えば数学書の第2章までくると)すると、理解は0になってしまうという理解の積の法則を提起するなど、少しは知見を付け加えることができたのではないかと思う。
しかし、まだ私が目指してきたことには届いていない。オリジナルな問題を発見し、それを解き、さらに発展させる、即ち数学ができるようになるにはどうしたらいいか、という命題への答に。数学ができるとは、既に与えられた問題(解けると分かっている、あるいはできないと分かっている)が解けるということだけを意味しない。受験数学のように、適用できる公式を見つけて、問題を解く、ということを意味しない。
既にこのホームページ上でお知らせしたように、2006年を以て、数学工房はサイエンティスト社より独立した。数学工房の十余年において、私の理解の精度は上がったと思う。また、演習問題にも積極的に取り組み、少しは解けるようになってきた。強調したいのは、それは数学ができるようになるための出発点に過ぎなかった、という点である。私たちは、その先に自分自身で問題を発見し、それを解く、さらには理論を作るという数学の営為に参画したいと願っている。数学研究者からは「そんなに甘いもんじゃない」とか「素人に数学研究などできる訳がない」などと言われそうだが、その非難は当たらないと思う。数学の自然な営みに沿って取り組もうとすれば、上記のようになるからである。その中で質を上げていけばいいと私は思う。
その意味での数学ができるようになるにはどうしたらいいかを、私はこの場において随時書き留めていきたい。したがって、私自身の数学活動は今後も精力的に続けていきたいと願っている。そのために、自分とは違うアイデアの持ち主である他者への協働作業であるセミナーや、数学者に発見物語を語って頂く講座の開設などを計画していきたい。このコーナーにおいて随時お知らせするつもりである。