全東栄営業部の落合さんが2月15日に来た。落合さんは毎月15日に来社する。定期積金の集金があるからだ。しかし、この日は、一通の書類を持ってこられたのである。「斉藤精一郎先生講演会 -中小企業の生残り戦略」とあった。全東栄の取引先企業の社長が一同に集まる会なので、参加して欲しい、というのである。そう言えば、確かに私も社長であった。懇親会があるとは言っても4500円の参加費がかかる。「うーん」と渋ったのだが、落合さんも熱心だ。この企画は全東栄で初めてのもので力を入れている点、他業種の社長と交流できてビジネスチャンスも広がりますから、と言う具合に。
私はしばらく優柔不断にしていたら、興産信用金庫からも似たような講演会の案内をもらったので、「そうなんだ」と妙に納得したのであった。直前まで愚図愚図していたのだが、3月3日の開催日はスケジュールがあいていたので、何となく出かけてしまった。場所は上野の東天紅。
立教大教授の斉藤氏の講演は、まあ、一般の経済状況を楽観的に述べた漫談と、私は聞いた。
多分、零細企業にとっては、大状況の分析ではなく、日常に起きる課題をどう解決するかが切実なはずである。その超微細な課題にヒントになる話、ないしは大状況と筋道がつくことによって見えてくる解決策を聞ければ嬉しかったのだが、そうではなかった、ウロ覚えの記憶では、あと2~3年でデフレが終わり、インフレが来るからインフレに備えよ、が締めくくりだったように思う。
しかし、1時間半の講演が終ってからの懇親会は掘り出しものの楽しい一時だった。会場は、全東栄の支店ごとにテーブルがセットされているので、私は、本店営業部のテーブルに行った。本店営業部は神田小川町にあるので、集う社長はまた、神田界隈に会社のある人々である。
私はまず、白鳳社という近代詩歌の出版社を経営している相田さんと懇談した。「青春の詩集シリーズ」全35巻や、作者により代表句の自選自解をなした「現代の俳句シリーズ」をはじめとして、芸術書、評論・随筆を出されているとのこと。一定の読者をきちんと確保され、安定した経営をされているようであった。
そこへ一人の若手経営者が親し気に近付いてくる。誰だろう?私はふっと妙な感じがした。「どこかで会ったことがあるかな?でも思い出せない」。果して、あの青年実業家に、私は会っていたのだった。旧山崎ビルから路地を入った所にある中華の南風で、給仕をしていた若者だったのである。その田所さんは、私が一時南風で昼食(モヤシソバ)を摂っていたことを憶えておられたのだ。現在、不動産管理の(株)湯之沢の社長をされている。二世経営者である。当時は長髪で、特に言葉をかわした訳ではなかったのだが、今は活動的な経営者に変身していた。
昔、呑みに行っていた昇龍館の若手社長小林氏とも歓談した。呑み屋自身はだいぶ前につぶれてしまったのだが、幅広く活躍されているらしい。やはり二世の経営者である。会場を眺めると、そういう二世と見える若手経営者が結構参加されていて、私は「そうなんだー」と感じ入った次第である。
ユニークな会社といえば、銀星アド社であろう。その水野社長と歓談したのだが、水道橋駅前にあるアドバルーンを扱う会社である(他にイベント企画、ディスプレーなど幅広く手がけておられる)。多分、目に止めた方も多いと思う。歴史は古く、何でも先代社長の時に、2.26事件に際し、反乱軍に対し警告のアドバルーンをあげたのがこの銀星アド社であったそうである。何か、楽しくさせてくれる。
あちこちで歓談の輪ができ、尽きることのない交流の場であったが、私は次の用事があり、午後6時過ぎに、東天紅を後にしたのであった。楽しい一時を企画してくれた全東栄信用組合さんに感謝したい。