6月8日(金)から9日(土)にかけて高知へ出張した。高知工業高等専門学校の三人の先生(渋谷清雄、藤井幸一、谷沢俊弘)の密な共同作業による演習書『Mathematica 基礎からの演習』(4月15日刊行)のその後の販売状況を報告しに、と言うか刊行を祝うための小旅行である。
午後4時過ぎ、分厚い雲の壁の中を通り抜けて、全日空機は高知空港に着陸。高知高専はのんびりと牛が草を食んでいる高知大農学部の農耕場を通り、空港から車で5分足らずだ。同行されたのは、慶応大理工学部数理科学科の中野實先生。車で迎えに来てくれたのは、藤井先生。本書は藤井先生たちが実践していたMathematicaによる数学演習のテキストの出版企画を中野先生が小社に仲介して下さって成立したのである。
私は出版企画というのは、自らがアイデアをひねり出すというより、企画を持っている人との出会いであると思い定めているので、中野先生からの提案を受け入れたのである。今年の1月のことであった。
ぎりぎりまで制作のために先生方の手をわずらわせ、教科書販売の当日に間に合わせてから2ヶ月余。小社だと丁度、新刊の売れ行きが分かる頃である。私は高知発ということを強調するためにカバーにはりまや橋を配し、Mathematicaの学習のステップを上げていけるようにという思いをデザインした。
定価は、先生方の要望を入れて300頁にも拘わらず1,800円+税と抑えた。果たして全国の書店で動き出すのか。大いに気になるところであった。
年齢順に渋谷・藤井・谷沢三先生と中野先生、それと私の5人は工専から高知市内へと繰り出した。車で30分くらいだ。アンパンマンの博物館が人気であるとか、横山隆一のマンガ館建設の話で車内は盛り上がり、高知名物の路面電車を横目に、我々は豊かな水量を誇り、市内を貫く鏡川のほとりにある臨川に降り立った。大正期代からの料亭できっぷのいい高知弁が旅の気分にさせてくれる。
さて、本題の販売状況である。私は営業の海老沢君に頼んで、ここ1ヶ月の書店からの注文短冊を一覧表にしてコピーしてもらった。これを見ながら、ビールを進めた。42冊分の短冊のコピーは、本書が良好に売れている事を物語っていた。右上に「補充」とある場合、書店に委託されたものが売れて、補充として注文されたことを意味する。また「客注」とある場合、文字通り書店でお客が注文した事を意味する。客注が有難いのはもちろんだが、補充の短冊も出版社の人間にとっては日々の活力源である。今回の場合、補充と客注の比率はおおよそ2:1であった。小社の本はその性格と営業力の関係で、丸善・紀伊國屋・ジュンク堂・有隣堂などの大型書店か、北大・京大・理科大・千葉大などの大学生協での回転がほとんどである。しかし、先生方に喜んでもらえるには十分であった。
著者にとって本を作ることは当然として、自分の本が全国の書店に並び、しかも売れていく、ということもまた、別種の喜びなのである。出版人として、その喜びを共有できるのはすばらしいことである。
藤井先生は残念会になることも覚悟したとのことであったが、臨川での集いは真に出版記念の宴となったのである。