第2期医薬安全性研究会

Japanese Society for Biopharmaceutical Statistics - Since 1979 (1st 1979~2007, 2nd 2007~)

日本サッカーはW杯へ行けるか -その確率を計算しよう-

[きっかけ]

2005年3月25日、私は盛岡にいた。岩手県の、海洋環境事業の委員会に参加していたのだ。1週間前に『三陸の海と生物』という新刊を出した縁による。

海洋生物や海洋生態系の研究者と県の担当者が集い、県主催による研究事業の成果報告と、今後の研究事業が紹介された。ユニークな集いである。会場であるエスポワール岩手での交流会、街に繰り出してのワインとタンゴの生演奏を楽しんで、エスポワール岩手に戻ったのは午後10時過ぎであった。

タイミングよく、サッカーW杯最終予選、日本対イラン戦が始まろうとしていた。見ない訳にはいかない。後半、日本が同点に追いついたときは、大したサッカーファンでもないのに、思わずガッツポーズをしたのだが、すぐそのあと、スキを突かれて(熱心に見る訳ではない私にも分かった)点を入れられたときは、身体中の力が抜けてしまった。一体何なんだ!

結局2対1で敗れ、3月30日バーレーンに辛勝し2勝1敗で前半戦を終えたことは言うまでもない。


[勝つ確率の考え方]

後半までの2ヶ月余、話題は、もちろん日本はW杯へ行けるか、である。4月の日曜の朝、椎名町の珈琲館でコーヒーを飲みつつ、スポーツ紙を読んでいると、W杯予選の展望について寸評が載っていた。なんでも「日本は2勝1分けを目指さなければ駄目だ、W杯は甘くない」というような内容だったと思う。「そうかな?」と私はチラッと思ったのである。そして、少しずつ考え始めた。「日本がW杯に行く確率は本当はどのくらいなのだろう?本当に2勝1分けでないと駄目なのか」と。


[具体例]

最初は、具体的な場合を取り上げて、各国の勝ち点を計算してみた。

図1
(日:日本、イ:イラン、バ:バーレーン、北:北朝鮮)

という具合に。しかし、こんな例を漫然と書き出しても、何も分からないことに気が付き、昼休み(一応あるにはある)にまじめに考えてみた。

後半戦は、全部で6試合行われる(上図参照)。各試合は一つのチームから見れば、勝ち負け、引き分けの3通りが生じ、各々の試合は独立だから、

36=729通り

すべての場合について勝点を計算し、日本が2位以内に入る場合の数を数えれば、確率が計算できる。とはいえ、手で計算するのだから、大変だ。私は数日、ためらっていた。一、二の場合について図1のように勝ち点を計算しようとすると、ひどく面倒で、先へ進まなかったからだ。

しかし、日本はW杯へ行けるのか行けないのか、どうしても知りたい。TVで見た試合の緊張感は、長年見てきた野球にはないものだったから。


[1勝1敗1分けの場合]

私は日本が1勝1敗1分けの場合、他チームの3試合の勝敗をすべて書き出して、日本の勝ち点を計算することにした。そのため、単純なことだが、図1を1列にした。

図2

図2を作り、勝ちを○、引き分けを△、負けを●と記すことを思いついた。無論、勝敗は、行の国から見たものである。

ここで、

[1]1勝1敗1分けになる場合の数は6通り
[2]各々について、他の3試合(日本以外の3ヶ国の)の勝敗は33=27通り

これを書き出して、勝ち点を記し、さらに前半戦の勝ち点を加えて一覧表を作った。


図3は日本が北朝鮮に勝ち、バーレーンに引き分け、イランに負けた場合のもので、日本の勝ち点は10である。

イランの勝敗 バーレーンの勝敗 後半戦の勝ち点 最終的な勝ち点
VSバーレーン VS北朝鮮 VS北朝鮮 日本 イラン バーレーン 北朝鮮
4 9 4 0 10 16 8
4 9 2 1 10 16 6
4 9 1 3 10 16 5
4 7 4 1 10 14 8
4 7 2 2 10 14 6
4 7 1 4 10 14 5
4 6 4 3 10 13 8
4 6 2 4 10 13 6
4 6 1 6 10 13 7
4 7 5 0 10 14 9
4 7 3 1 10 14 7
4 7 2 3 10 14 6
4 6 5 1 10 13 9
4 6 3 2 10 13 7
4 6 2 4 10 13 6
4 4 5 3 10 11 9
4 4 3 4 10 11 7
4 4 2 6 10 11 6
4 6 7 0 10 13 11
4 6 5 1 10 13 9
4 6 4 3 10 13 8
4 4 7 1 10 11 11
4 4 5 2 10 11 9
4 4 4 4 10 11 8
4 3 7 3 10 10 11
4 3 5 4 10 10 9
4 3 4 6 10 10 8
図3
(北朝鮮の勝ち点は略)

このとき、バーレーンの勝ち点が日本を上回るのは、以下の3通りのみである。



いずれも、バーレーンは2勝1分け(日本と引き分け)の時。即ち、日本が北朝鮮に○、バーレーンに△、イランに●の時に、バーレーンが勝つ(2位以内)確率3/27=1/9に過ぎない。日本は8/9の確率で予選2位以内を確保する、というわけだ。

では、他の5つの1勝1敗1分けの場合の勝つ確率を掲げよう。


(A)バーレーンに勝つ場合

(A-1)

日本の勝つ確率は1(=27/27)である。バーレーンは最高でも2勝1敗止まりで、勝ち点は10で日本と並ぶが、日本に敗れているので3位に甘んじることになる。展開によっては日本が1位になる場合が9通りある。


(A-2)

イランに負けての1勝1敗1分けだが、対バーレーンについては変わりなく、日本は2位以内を確保でき、勝つ確率はやはり1=27/27である。但し、イランを上回ることはできない。


(B)バーレーンと引き分ける場合

(B-1)

バーレーンには引き分けだが、イランに勝つと、日本の勝つ確率は27/27=1 or 26/27となる。

何故2通りあるかと言えば、次のパターンの時、

即ち、イランが1勝2敗、バーレーンが2勝1分けだと、バーレーンが勝ち点11で1位になり、日本とイランは勝ち点で並ぶ(しかも1勝1敗)から、現時点ではどちらが2位になるか分からないからである。

また、同じくバーレーンが2勝1分けで、イランが2敗1分け、あるいは3敗とすると、イランは3位に後退し、W杯へ行けなくなる。


(B-2)

これは最初に示したパターンで、日本が勝つ確率は24/27=8/9であった。


(C)バーレーンに負ける場合

(C-1)

この場合、日本は不利に(確率が小さく)なるように思われるかもしれないが実はそうでもない。前提として1勝1敗1分けを仮定しているので、イランには勝つか引き分けになるからだ。むしろ、イランが3位に沈む場合が9通りも出現する。バーレーン1位、日本2位だから、日本は予選を勝ち抜くことになる。

はっきりと、日本が3位になるのは、次のパターンだけである。

即ち、バーレーン2勝1分け、イラン1勝1敗1分けだと、ともに勝ち点11で、日本の10点を上回ってしまうのだ。そして、勝ち点10で並ぶパターンが7つあり、これはどうなるか分からない。特に下図が面白い。

イラン1勝2敗、バーレーン2勝1敗だと、3チームが勝ち点10で並ぶのである。

このパターンで日本が勝つ確率は最善で26/27、最悪で19/27となる。バーレーンに負けることが如何に大きいか分かる。


(C-2)

このパターンだと、バーレーンに2位または1位を奪われるのは4通りであった。多いとは言え、それでも日本の優位は変わらない。このとき、イランが3位になるのは6通りである。

日本の勝つ確率、最善は23/27、最悪は19/27と出た。


[集計]

こうして日本が1勝1敗1分けの時の全パターンについての勝ち点が出揃った。すべて集計すると、

最善 最悪
154/162 142/162
95.1% 87.7%

と計算された。いい確率ではないか。無論、残り6試合の勝負は互いに独立ではなく、複雑に係わり合っていることは承知している。しかし、このように全パターンを同等とみて、客観的にデータを出すことが無意味とは思わない。

さあ、6月3日のバーレーン戦だ!