第2期医薬安全性研究会

Japanese Society for Biopharmaceutical Statistics - Since 1979 (1st 1979~2007, 2nd 2007~)

巨人はいつから弱くなったか -データで比較する-
第2回 本塁打数から検証する

ホームランぐらい、巨人の偏ったチーム編成を示しているデータはない。

まず、V9時代と最近の本塁打数を表に掲げよう。

V9 最近
本数 本数
65 106 96 147
66 114 97 150
67 162 98 148
68 177 99 182
69 147 00 203
70 110 01 196
71 123 02 186
72 158 03 205
73 149 04 259
平均 138.4 186.2
標準偏差 25.75 35.97
t検定 0.00266

念のため、平均値、標準偏差を出して、2群の平均の差のt検定を行った。V9時代も、最近も、標準偏差は小さくて、各時期でコンスタントにホームランを打っていることが分かる。また、平均値の差は47.8本もあり、検定をするまでもなく有意差ありだが、後で述べるように、勝利に貢献したかというと、別問題である。

多い順に並べ替えた表も示そう。

V9 最近
177 259
162 205
158 203
149 196
147 186
123 182
114 150
110 148
106 147

その差は前述したように歴然としている。最近の本数の第6位ですら、V9時代の最多本数を上回っているのだから。しかし、現在とV9時代で打撃技術は格段に進歩しているといわれているので、必ずしも、V9時代が貧打だった訳ではないし、チーム力という点で劣っていた訳ではない。むしろ、この分析を通して最近のチーム力は、本塁打数が多いにも拘らず、あるいは、多いからこそ、弱っていることが示されるであろう。

打率同様、本塁打数のチーム順位についてみる必要がある。

V9 最近
65 2 96 3
66 3 97 2
67 1 98 1
68 1 99 1
69 1 00 1
70 3 01 1
71 2 02 1
72 1 03 1
73 1 04 1

即ち、V9時代でも、十分破壊力のあるチームだったことが示されている。もちろん、最近の98年以降、毎年1位というのは、突出した数字である。 しかし、それは優勝に貢献していないし、打率とも相関がない、というところに大きな問題があると言わねばならない。

試みに、チーム打率の順位をホームラン数の順位と並べて書いてみよう。


ホームラン 打率
96 3 5
97 2 4
98 1 2
99 1 2
00 1 4
01 1 2
02 1 1
03 1 4
04 1 4

このようなバランスの悪さの原因は、今さら言うまでもなくFA制度発足(94年より施行)以来、4番打者ばかり集めたチーム編成にあったであろう。どんな選手が入り、どれだけ活躍したかを確かめておくが、その前に、V9時代と最近の最多ホームランの年を主力のホームラン数で比較してみよう。

V9(68年) 最近(04年)
打率 ホームラン 打率 ホームラン
.326 49 高橋由 .3169 30
長嶋 .318 39 小久保 .314 41
黒江 .284 7 清水 .3079 16
柴田 .2579 26 阿部 .3007 33
.228 11 ペタジーニ .290 29
仁志 .2894 28
ローズ * 45
(49.7%) (85.7%)
*打撃30位までに入らず

改めて書き記してみると、04年のホームラン数のすさまじさがよく分かる。しかも、これだけのホームラン打者をそろえていながら、チームは3位だった。ホームランが如何に勝利に貢献できないかをこれほど雄弁に物語っている事例も少ないだろう。頭デッカチならぬ、腕っぷしデッカチ。多分、その原因は、攻撃野球という理念を具現すべく、1994年のFA制度実施以来、各チームの4番打者を引き抜いた戦略の大失敗にあった。 これは新聞にも書かれ、多くの人が語っているので、周知のことであろう。ここでは[1]、[2]から巨人に入った4番打者たちの一覧を作ってみよう。

入団 主な退団者
94年 落合博満 駒田徳広
95年 J・ハウエル
広沢克巳
シェーン・マック
97年 清原和博
石井浩郎
落合博満
98年 ダンカン
2000年 江藤 智
2003年 ペタジーニ 松井秀樹
2004年 ローズ
こうしてみると、本当によく入団させたものである。結果を残しているのは落合だけで、江藤も最初の3年間は打点、本塁打に数字を残している程度で、 (ローズが04年に本塁打を45本打っているが、打率は30位までに入っておらず、勝利には貢献していない)、この戦略の失敗は誰の目にも明らかだろう。
ハウエル、マック、ダンカンの3選手の存在は、[1]、[2]を見て初めて知ったくらいで、殆ど活躍はしていない。ひどいものである。広沢や石井にしても、明確な活躍の場が与えられず、飼い殺し状態だった。これもひどい話である。(ここには挙げなかったが、投手の補強も、工藤以外は成功していない)
チーム戦力を強化する上で補強は不可欠である。生え抜きだけでチームを構成せよとは言わない。巨人も、優勝するときは適切な補強によって戦力をアップさせてきた。無論、他チームとて同じことである。如何に的確に補強をするか。この点で、94年FA制発足以来、FA制をフルに活用して、ほとんど成果を挙げることができなかったのは、まことに皮肉と言う他ないし、巨人に選手補強の戦略が完全に欠落していることを示していよう。プロ球団としての基本を見失っていることが分かる。 試みに、清原の入団以来の成績を掲げてみよう。
打率 順位 本塁打 打点
97 .249 29 32 95
98 .268 24 23 80
99 .236 × 13 46
2000 × × × ×
01 .298 13 29 121
02 × × × ×
03 × × × ×
04 × × × ×
×は規定打席に入らず。99年は[1]より拾う。

勘弁してくれと言いたい。いくら人気があるとは言え、2002年からは全く結果を残せていない(規定打席に達していないので、記録集から結果を拾えない)のだ。

97年入団以来、ベスト10にはついに1度も入っていない(01年の13位のみが最高)。戦力になっていないことは明らかではないのか。新聞報道では、野茂の入団を企図しているようだが、もし本当だとしたら、巨人が依然として間違った補強戦略にしがみついていると言うしかない。既に戦力にはならない野茂を入れてどうしようというのか。もちろん、野茂が輝かしい球歴の持ち主で大リーグ進出のパイオニアであることは百も承知だが、清原の二の舞を演じて勝てない巨人を際立たせたいのだろうか。

再度書くが、私は巨人軍のプロ意識を疑う。人気と実力を兼備してこそスターであり、清原の結果は、主力選手のものではない。 それをスター扱いしたところにも巨人軍が誤った戦略を放置していたことがよく分かる。


[1]宇佐美徹也 『宇佐美徹也の記録 巨人軍65年』(説話社、2000年)

[2]東京読売巨人軍監修 『読売ぶっくれっとNo.27 巨人軍ヒストリー』(読売新聞社、2001年)


第三回へ続く

(2005.10.26)